北京郊外に漂うSF的空気−黒四角をみて

奥原監督2012年作の黒四角と言う日中合作映画を見た。

北京郊外の絵描き村として知られる宋村が舞台。この黄土の埃っぽいけど、一瞬だけユートピアのような香りのする田舎。裸電球が放つワイルドな光がぴったりなシュールっぽくもあり、生々しくもあるそんな中国の田舎独特の空気。そこに芸術を目指すちょっと邪で、ちょっと純粋で、ちょっと愛らしいそんな若きゲージュツカ達が住んでいる。

ここに生きる人、こういう生き様の描写、こういう人々の空気を記録している、という点でこの映画は非常に面白い。

ネオンが消えることなく、どこまでもコンクリートで舗装された北京には無い、瑞々しさ、危うさ、ワイルドさ、生々しさがある。同時に若く、恐れを知らない、未来に向かう軽さもある。監督曰く、その場所で生活した時、SFっぽいと感じたという。確かに日本人の我々にとってはある意味SFっぽさがある。その味はこの映画で存分に表現されていたと思う。

私は主人公よりも、そこで絵を描いているシャオピンという男が気に入った。彼の彼女は日本から来て服飾アートをしているハナ。ハナはシャオピンの妹とも仲が良い。この3人をつなげる素朴な温かさと得もしれない信頼感がなぜか心地よい。国境を越えた日中のアートを志す飾り気のないカップル、彼らが住むアーティスト村の人々という設定と舞台自体が新しい時代を否応なく提示している。

若い世代の若い息吹。新しい時代の瑞々しさと軽さと危うさ。その埃っぽさが伝わってくる。
静かな話なのに妙な緊張感に引っ張られるそんな話だった。環境音が印象的に上手に使われている。北京、中国の音が迫力があり、異化効果ありだ。

一方、難を言えば、長い。140分はちょいと長い。
そして、日中のカップルを扱いながら、戦争の題材にチャレンジした勇気と心意気は素晴らしいが、この重い題材を扱うにはちょっと軽すぎる。そもそも敢えて料理しにくい材料をここで投入するのは不必要なような気がした。志半ばで未完といったらいいだろうか、全力投球したとは言い難い。脱純粋恋愛をてらった安易な選択だったというのが本当の所だったりして?

ということで、監督も言っていたように誰もが好きになる映画じゃない。ただ、場面場面の音や映像が頭に残り、何かを考えさせるきっかけをくれる。また、中国にこういう空間と人々、コミュニティーがあるということを知るだけでも新鮮でインパクトがあるかもしれない。

そいういう意味ではお薦めな映画である。
これ、本日の北京なり。