その3 なぜこんなことに? 日本の私立も顔負け、企業化する公立校

それにしても、なぜこんなことになってしまったのだろうか?

公立、私立の2本立ての学校整備がキチンとできていない学校行政に問題がありそうだ。見てきたように、名門公立校は実質上企業と化している。一方で、普通の公立校への政府の投入は足りていない。そして「消費者」サイドでは、一昔前と違って名門入試のために多少の「塾代」や「寄付金」を払える層がでてきており、一大入試市場を形成している背景もある。需要と供給バランスが崩れているところに、良い学校は私立化(企業化)して潤う一方、普通の公立はおいていかれている。金を積める人が多くなり、競争の激化を招いているというのがざっとこの状況だ。

名門校に入るための入試や寄付金競争が激化しているのは世界中どこも同じだろう。ただ問題は、公立学校の「公共性」そっちのけで、売り手市場なのをいいことに勝手に企業化している名門校を行政も分け前をもらって黙認している点だ。その一方で多額の寄付金なしに普通の子供が入れる公立学校ではレベルアップがはかられないまま放置されている点が最大の問題だろう。

では、どうしたらいいのか?

問題は複合的で解決は一筋縄ではいかないが、まず考えられるのは、政府による普通の公立校への投入を増やし、先生の待遇を上げて教育の質を上げることだろう。普通の公立校のレベルが上がれば、名門校に大枚をはたいて入学する必要がなくなり、競争は緩和される。

中国で驚くのは、これだけ教育重視(いや、偏重?)の社会文化がありながら、先生の地位が非常に低いことだ。そしてそれを反映してか、先生の質は決して良くない。勿論待遇も悪い。

日本では小学校の先生になるのは教育学部での4年間の専門教育が必須で空きポストも少なく難関だ。しかし、中国では短大卒で実習も何もなくすぐに正規の小中学教師になれる。試験科目は教育学、教育心理学、標準語、教授法の4科目。北京の資格試験予備校の広告では受講生の平均合格率は95%、15日間の研修の受講生には試験合格さえ保証(不合格の場合は学費全額返済)しているくらいだから敷居は相当低いのが分かる。ここでは保母さんと同じ扱いだ。

何といっても教育の要は先生の質だ。しっかりした知識と情熱をもった先生が教壇に立つように改革が必要だ。中国の教育改革は90年代後半以降確かに大きく進展した。教科書にも案外面白い内容が含まれているし、英語やコンピューター教育など日本よりもうまく導入しているものもある。しかし抱えている構造的な問題も大きい。

魯迅の叫びは今日もちっとも古くなっていない。

「子供を救え!」