(essay)中国を見る縦と横

◆先日、北京観光に来ていた河南省洛陽市の青年を、洛陽の警察が拘束し
て暴行を加え重傷を負わせた事件が中国紙で報道された。この青年は陳情
者と誤解され、地方政府が実施している容赦のない陳情者狩りに巻き込ま
れたのだ。「またか。まだこうなのか」という思いとともに、途絶えることのな
い権力による一市民への暴力に怒りの念を禁じ得なかった。

◆後日、この話を北京のタクシー運転手にしたところ、彼は驚きもせず涼しい顔。逆に「先進
国以外の他の国ではこういうことはないのか?」と真剣に質問してくる。私は他国事情に頭を
巡らせながら言葉に詰まってしまった。過去を知る彼から見ると「昔よりはまし」ということら
しい。「今やネットもあり、いろんな情報が手に入るし、昔よりずっと寛容、比較すればはるか
に良くなった」という。

◆権力による暴力は普遍的な悪であり、当然弾劾されるべきだが、一方で彼の言には彼のリ
アリティーが反映されていて一理ある。日本と比べれば衝撃を受けるニュースも、この国で生
きてきた人の相対的な基準から見るとそれほど驚くことでもない。中国の人が持つこの国の
過去を基準とした判断。日本人が持つ今の日本を基準とした判断。この間合いをはかるのは
案外難しいものである。