現実は小説より奇なり―閻連科インタビューより

イエンさんのインタビューが「壱読」の最新号(11月26日、「病人、いえん連科」)に載っていた。

彼の現実描写はまるで小説そのもの。彼は莫言と似た体制内だが、現実批判派の作家。
エイズ村を書いた「丁庄夢」など発禁モノも多い。

さて、彼の現実というのはこんなだ。
北京郊外の家が強制立ち退きで取り壊された晩、河南省の田舎に戻ると、20歳代の村長が顔を出せと言ってくるので顔を出す。煙草を勧める。田舎の親戚たちは子供が来年大学に上がる、就職する、手を貸してくれといってくる。村で暮らす両親たちへ迷惑をかけないために、誰にもウンと答えるほかない。

北京に戻る時、母親が彼の手をひいて言う
「なるべく権力、勢力のある人達と付き合いなさい。人の反感を買うようなああいうことはやめなさい。」と。

村近くの高速道路の入り口まで送ってきた甥が別れ際にこう言う、
「おじさん、僕のお母さんがおじさんにって言伝なんだけど、書くのはほどほどにして体を大切にして。もしどうしても書かなくちゃならないなら、政府と国を褒めるようなものを書くとか。歳をとるごとに愚かにならないようにって。」

北京に居ると忘れているが、半世紀、いや1世紀前と何ら変わらない窮屈な村で窮屈な頭と心のまま生活しているこういう彼の親類のような人達が今日もいるわけだ。

まるで小説のような酷な彼の現実を見て、思わず放心してしてしまった。
現実は小説よりも奇なり。
これ、本日の中国なり。


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以下、朝日の9月末の記事、ご参考まで。

閻連科(イエンリエンコー)さん

 東アジアの領土を巡る問題について、朝日新聞が9月28日付で掲載した村上春樹さんのエッセーに共感した中国の作家、閻連科(イエンリエンコー)さんが、米紙インターナショナル・ヘラルド・トリビューンに寄稿した。村上さんのエッセーが「対話のきっかけをもたらした」とし、文学者が役に立つ時だと強調している。

 閻さんは中国社会を風刺した作品などで知られる著名作家。6日付の「アジアの対立を和らげる言葉」と題した文章で、村上さんとノーベル賞作家の大江健三郎さんの文章に「深く心を動かされた」と明かしている。日中の対立に対して、仲間である文学者たちから理性的な声が上がるのを待ち焦がれていたという。

 とりわけ村上さんによる朝日新聞への寄稿を中心に論じ、「安酒の酔い」という表現で領土問題が国民感情をあおる危険性について指摘したことに賛同を示した。「日本の文学者たちは対話のきっかけを先んじてもたらした。彼らの人間性と勇気に比べ、中国の作家として返答の遅さを恥じる」

 また、村上さんによるエルサレム賞受賞の記念講演(2009年)「壁と卵」の例えも引き、「戦争に直面すれば私たちすべては壊れやすい卵だ」として「文学者の力の弱さを痛感しているが、私たちがもし役に立つなら、それは今である」と決意を述べている。

 中国国内で起きた反日デモについては、「中国の作家として破壊行為に参加した同国人たちを恥じるが、彼らの言葉にならない無力感と欲求不満に同情する」と打ち明けた。

 さらに、「文化と文学は、人類共通の絆である」と村上さんのエッセーに共鳴し、「文化や文学という私たちの存在の根が断ち切られようとしているときに、領土は本当に重要なのだろうか」と結んだ。

 閻さんは河南省の農村出身で、魯迅文学賞、老舎文学賞を受賞。人民解放軍の兵士と師団長の妻の不倫を描いた「人民に奉仕する」や、故郷・河南省の「エイズ村」を舞台にした「丁庄の夢」は、中国内で原作が発禁処分となったり、重版が差し止められたりしている。

 ヘラルド・トリビューンは米ニューヨーク・タイムズ紙の国際編集版。閻さんの寄稿はオピニオン面のトップだった。(ニューヨーク=真鍋弘樹)