漢方な日常

日本でも最近はショウガで体を温める、なんていう健康法が流行っているが、漢方の本場、中国では生活の隅々にこうした知恵が活かされている。

漢方では、確かに冷えは禁物。中国の人は総じて厚着で、冷たい飲み物も日本のようにはごくごく飲まず、室温を愛飲する。冷えたものを嫌う漢方派が少なくないため、レストランでビールを注文すると「冷えたのにしますか?室温のにしますか?」と聞かれる。

また、冬は勿論、夏でも寝る前に足湯をする。日本のように風呂が身近にない背景もあるが、確かに足を温めると体全体が温まり眠りに入りやすくなる。

こうして冷えを予防する一方で、中国では「上火(シャンホウ)」予防にも目を光らせる。つまり汗などで体の中から排出されるべき熱が体内にこもって火が登るのを防ぐのだ。

「冷え」と「上火」は対の概念。いずれも不健康の元でよろしくない。健康とは、両者の中間のバランスをとることを意味する。

中国には日常生活にこの「冷やす」と「温めすぎる」という感覚が生きている。食物も何となく冷やすと温めるに分けて理解されている。正式に漢方では冷える方から「寒」、「涼」、「平」、「温」、「熱」の5段階に分類される。

例えば、ショウガや羊・鶏肉は体を芯から温めてくれる「熱」に分類される食べ物。ゾクゾクして風邪をひきそうな時や冷えやすい女性の月の頃に食すのは理想的だが、体に良いからと言って食べすぎは禁物だ。

羊を食べてショウガも食べたら「上火」してしまう。上火となると、ほてったり、口内炎などの吹き出物や咳や熱がでたり、怒りっぽくなると言われる。だから中国では「羊を食べたら、体を冷やす梨を一緒に食べなさい」と言われる。

また、中国の秋〜初冬のグルメと言えば上海ガニだが、こちらは海鮮全般同様、体を冷やす食べ物。だから蟹はショウガを入れた酢醤油をつけて、体を温める紹興酒と一緒に食すのが良いわけだ。同じ理屈で体を冷やすお寿司とガリを食べると良いわけだ。

実は季節の旬の食べ物には合理性がある。夏には熱を取ってくれる瓜類のゴーヤやトマト、きゅうり、スイカがおいしいし、冬には体を温める根菜類の大根やジャガイモなどがおいしい。体が欲しているものは「おいしい」と自然に感じるから不思議だ。

お茶も緑茶は体を冷やし、発酵度の高い紅茶などは体を温める。緑茶は夏にのみ、紅茶類は冬に飲む。キク茶は体を冷やすので、こちらも夏がお勧めだ。

この他にも中国には「補いたい部分を食べる」という考え方がある。つまり、骨が悪ければ骨を食べ、皮膚が悪ければ皮を食べよと言う意味だ。確かに、軟骨や骨ごと食べられる小魚を食べれば、カルシウムが豊富だし、豚足や肉魚の皮を原料にしているゼラチンには肌をきれいにするコラーゲンがたっぷり含まれている。貧血の人はレバーを食べろというのも、肝臓は血を司る臓器だからだろう。

さらに漢方独特の考え方に、うつ病などを心の病気としてではなく、体全体の問題の一部と捉える点がある。日本ではうつ病だとカウンセリングをするが、中国では臓器の乱れた関係を交通整理して整え正常に戻すことで、考え方も正常に戻ると考えられているという。

怒ることを中国語では「生気」といい、「怒らずに落ち着いて」を「消消気」という。体の中の気が多くなりすぎて上火になると怒りやすくなると捉えているからだろう。

このように、全ては気候や体質の上にたったバランスの問題なので、「体に良い食べ物」をひたすら食べるのは間違いで、その季節や状態に応じて栄養過多で熱っしていれば控えて冷やし、不足していれば補い、冷えていれば温めるのが正しい。

自然のリズムに即したバランスよい食べ方が実は一番体に良いわけだ。中国の人は自ずとこんな漢方な日常を送っている。