現代官僚小説としても読める清の宰相小説「紫禁城の月」

昨日は『紫禁城の月-大清相国 清の宰相 陳廷敬』と言う本について、翻訳を手掛けた東紫苑さんのお話を聞いた。

いやいや、知らないことがたくさんあって、実に興味深かった。
まず、この本は清代の官僚が主人公。皇帝と地方の凌ぎ合いの中で、皇帝に仕え、官僚ワールドのなかで出世した人物を描いたらしい。2009年頃に出版され、元北京市市長、現中央規律委員会トップの王岐山が部下に読むようにすすめた本で、ミリオンセラーにもなったという。

この主人公の生家は山西省陽城県という実在する県で、明代に炭鉱、鉄鋼、製鉄で財を成し、そこの釜や鍋はおそらく日本にも長崎経由で輸出されていたらしいという。

明代末は陝西省で始まった李自成の乱など農民反乱により、政府はあてにならず、豪商は自己防衛のために要塞を建設。この陽城も城壁を築いたという。

そんな時代が背景。

時は現代。この作者王躍文は、湖南省懐化し政府の職員を経て、今や人気「官場小説」作家に。リアルな官界の世界を描き、中国の広い層から支持されているらしい。

それにしても、中国の人は、こういう官界モノが大好きだ。官界モノって、つまり、オフィス政治、嫌がらせしたり、されたり、しながら出世していく話だ。見どころはこちらが唸るようなひどい嫌がらせと、それを如何に賢く免れるか、と言うところ。嫌がらせオリンピックみたいなもので、そのレベルは本当に世界一流、金メダルモノだ。

で、東さんの説明によると、中国の人がなぜ、時代物の官界小説をこんなに好きなのかというと、中国では政治体制が根本的にはその当時と変わっていないため、似たようなシチュエーションが今日もあるので、共感されるのではないか、という。中国では科挙制度が完了していら、同じ形の中央集権のなかで策略で騙す、騙されるをやり続いている。

さらに、商人だったとしても、政府の官僚の動きをちゃんと把握しておかないと、身ぐるみ剥されることも免れない。儲かる、儲からないは政府の官僚との関係次第というのが中国の現実。だから、彼らのことを把握し、ちゃんと関係を持っておく必要がある。無関心、無関係では中国では金儲けはできない、という。確かにその深い関係は今も同じだ。

日本の場合だと、江戸幕府の幕僚と現代官僚の政治・オフィス政治では、選挙やら民主制の違いやらいろいろ新しい要素があり、そのままは重ね合わせられない。

しかし、中国では、相変わらず、中央と地方のせめぎ合い。中央官僚が地方視察に行くと、先方は接待漬けにすることで、実態は隠そうと努力する。それは清も今も同じと。朱鎔基が食糧貯蓄の検査に行った時、倉庫入口に無数のタイヤの後があることを部下が発見。案の定、食糧は彼の視察に合わせて持ち込まれたもので、彼と共に移動していた事が後から発覚した、という有名な話も。

ん〜深い。今もそれが変わっていないということか。
じっくり翻訳本を読んで中国の政治について学びたいと思う。
これ、本日の北京なり。